某IT企業のエンジニア・SEとして勤めて6年目になる私(このブログ管理者)ですが、数年前に客先常駐として配属されたプロジェクトは「多重派遣・多重下請け構造」と呼ばれる、IT業界の悪しき慣習にどっぷり浸かっているプロジェクトでした。
(元客先常駐エンジニア兼SEが、業務内容や辛い実態を暴露します)
そこで今回は、私の過去の実体験をもとに「多重派遣・多重下請け構造」というIT業界の闇について色々と語っていこうと思います。
まずは、以下の図を見てください。
これが、多重派遣・多重下請け構造を表した、SIer業界のモデル図です。
上記のように上から下へピラミッド構造になっており、一番上がエンド顧客からシステム開発を受注する「元請け」。
そこから、下に「一次請け」「二次請け」「三次請け」となっていきます。(それぞれの上位層の会社から、システム開発を依頼され受注するわけです)
このように何層にも渡って、派遣や請負がおこなわれているのが「多重派遣・多重下請け」の実態というわけです。
というわけで今回は、なぜSIer業界がこのようなピラミッド構造になってしまうのか・・・根本的な原因や、労働者への悪い影響について。等々を書いていきたいと思います。
以下、目次。
- 多重派遣と多重下請け構造(SESや請負)の違いについて
- SIer業界がピラミッド構造になってしまう根本原因と問題点
- 労働者にとってデメリットが多いIT派遣・多重下請け会社に入らないために
多重派遣と多重下請け構造(SESや請負)の違いについて
まずは、2つの違いについてですが、一番大きな違いは、
「多重派遣」は法律で禁止されていること。要は犯罪なわけです(A社から派遣された労働者を、B社へ派遣してはいけない)
一方、多重下請けは、派遣を含め「請負」や「SES(業務委託の一種)」といった労働モデルが、二重以上に構成されている形態を指します。
例えば、
A社から派遣された労働者を、B社へ請負という契約で常駐させるのは法律で禁止されていません。
(さらに「請負→請負」や「請負→SES」、「派遣→請負→SES」なども法律的にはOKです。あくまで派遣が二重以上の構成になるのが違法になります)
ですが、SIer界隈では「請負」という契約になっているにも関わらず、実態は「派遣」と同じように労働者を働かせている企業が非常に多く、それが多重下請け構造でよく騒がれている問題になっています。
多くのブラックSIer企業が多重派遣は法律違反で厳しく罰せられるので、「請負」や「SES(客先常駐」といった契約で誤魔化し、その実態は派遣労働者のように働かせているわけですね。
そして、上記は「偽装請負」という別の法律違反の温床にもなっているわけです。
それが破られている状態を「偽装請負」と呼びます。
(詳細は以下)
このように法律違反の温床となっているにも関わらず、それが一般的な悪しき慣習になっているのがSIer業界のヤバイところなわけです。
SIer業界が多重派遣と多重下請け構造になってしまう根本原因と問題点
上述の通り「多重派遣」は違法なので明からさまにやっている会社はいないのですが、実態は多重派遣と何ら変わらないのに「請負」や「SES(客先常駐」といった契約で誤魔化し誤魔化し「多重下請け構造」となっているのが、今のSIer業界です。
では、なぜこのような摘発されかねない状況が慣習となってしまっているのか。
もし仮に上記のような問題を解決しようと思ったら、システム開発を発注するエンド顧客が自社に開発部隊を用意すること。
もしくは、一次請けのSIer企業だけで受注開発をこなせる開発部隊を用意することです。
それも、大企業のプロジェクトであれば、数十人・数百人が関わるような大規模プロジェクトとなりますから、それを一社だけで賄(まかな)わなければいけません。
ですがこの場合、問題がでてきます。
それは、そのプロジェクトが終わったら、数十人・数百人といった開発部隊の人員が余ってしまうことです。
エンド顧客であれば、そのプロジェクトさえ終わってしまえば、そこまでの人員はどう考えても必要無いですよね。
SIerでも、それだけの人数を一気に調整して別の案件に配属させるのも難しいでしょう。
当然、プロジョクトが終わったら解雇します!なんてことも日本ではできません。。
このような開発者雇用のリスクを無くすために、一時的に(そのプロジェクトだけの)別の会社から開発要員を派遣または請負等によって確保するわけですね。
そしてこの業界では常識なのですが、「プロジェクトの上流工程(企画・設計)は儲かり、下流工程(開発・テスト)は儲からない!」といった常識があります。
ここを、多重下請け構造の上位層に位置する「一次請け」はうまく利用するわけですね。
基本的に一次請けの企業が上流工程を担当して、下流工程についてはその下に丸投げ!ってパターンが一般的です。
これによって、1次請けが一番儲かり、3次請けや4次請けの会社は、微々たる金額しかもらう事ができない。。。って事になってしまうわけです。
それでも、下位層の会社は仕事を受注しないと食べていけないから、金額等の条件が悪くても受注してしまうわけですね。
また、多重派遣・多重下請け構造の下位層の会社は、労働者を上位の会社に派遣・常駐させる事が一般的なのですが、その派遣された労働者が非常に劣悪な労働を強いられる事も、この業界の問題となっています。
(以下、派遣労働者の問題をまとめてみました)
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「劣悪な労働環境」
よく、「上位の会社に派遣された労働者(開発者)は、奴隷のように扱われる」なんて言われていますが、それぐらい長時間労働・休日出勤・パワハラ等が当たり前のように横行しているプロジェクトなんかもあります。
あとは、僕が実際に経験したことなんですが、そもそも作業するスペースが無かったり、(最初の1ヶ月は別会社に行って作業しました)
貸与されるPCのスペックが異常に悪かったり。。(未だにOSがXP。みたいな)
僕の立場としては、仕事を受注してお金を頂いている立場なんで、発注側から理不尽な対応をされたり。とかもありました(明らかに間に合わないスケジュールで無理強いされたり)
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「給料が低い」
上述の通り、多重派遣・多重下請け構造では、下位層であればあるほど給料は低くなっていきます。(上位層にマージンをガッポリと搾取されるので)
実際、僕の客先常駐時代は手取り:17万。とかでしたね。
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「エンジニアとして成長できない。。」
もちろんプロジェクトによって、仕事内容は変わってくるので一概には言えないのですが、
プロジェクトによっては、開発経験が無くてもできるテストの実施や、データ入力と行った単純作業。
あとは、僕の知人の話ですが大量のPCを一つ一つダンボールに詰めるだけの作業を永遠にさせられたって話も聞きました。
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「とにかく安定しない。。」
客先常駐を主とした会社なんかは、とにかくそこの労働者は安定しません。
配属されるプロジェクト毎に客先も異なるので勤務地が安定しないし、勤務時間も案件ごとに異なります。
当然、人間関係もイチから構築していけません。。
1・2年同じ客先に居れるならまだ良いですが、3ヶ月のプロジェクトに配属されたりしたらまったく安定しないですよね。。。
精神的にもかなり大変だと思います。
というわけで、多重派遣・多重下請け構造に組み込まれる労働者の問題点でした。
労働者にとってデメリットが多いIT派遣・多重下請け会社に入らないために
上述の通り、中小のSIerやSES(客先常駐)の会社に勤めてる労働者なんかは、多重下請けに組み込まれてしまい非常に問題点が多いです。
なので、根本的な解決策としてはもう転職するしか無いでしょう。
一番良いのは「自社で全て完結する会社」で、自社でサービスを提供して自社でその開発をおこなっているような企業。
あとは、エンド顧客と直でやりとりし開発をしている会社(一次請けの開発会社)
転職するとしたら、上記のどっちかに当てはまる会社が良いでしょう。
ただし、大事なのが「転職活動時・就職活動時に、ちゃんと上記のような会社を見分ける事ができるのか・・」
何も事前知識が無い状態だと、違いを見分ける事なんて出来ません。
というわけで、ここでは中小のブラックSIerやSES(客先常駐)会社の求人票の特徴について以下にまとめてみました。
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「勤務地:都内近郊となっている」
常駐先によって勤務地は都度都度変わるので、上記のような求人票の記載になっています。
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「勤務時間:応相談」
勤務地と同じで勤務時間もあえてアバウトな表記になっていたら要注意です。
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「月イチの帰社日をアピールしている」
客先常駐を主としているSESの会社なんかは、自社に戻る日を月イチで設定している所が非常に多いです。(=それ以外は客先出社という事)
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「取引先が同業社ばかり」
会社のHPに取引先を記載している会社も多いでしょう。
そして、そこに同業者ばかりが記載されている場合、その会社から仕事を受注している2次請け・3次請け。という事になります。
一方、違う業界の会社が取引先として多い場合は、元請けの可能性が高い。という事です。
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「社員数のわりにオフィスが小さい」
社員は基本客先常駐で自社にいないので、オフィスは小さくても良いわけですね。
以上、多重派遣・多重下請けの下位層にいるような会社の特徴でした。
もしこの業界への転職・就職を検討している方はぜひ注意してください。