どーもー、某IT系の会社でエンジニアとして働ている者です(当ブログの管理人です)
今回は、偽装請負について様々な観点で解説をしていきますが、
私の働いているIT業界(特に、SIerやSES界隈)でも、この偽装請負が問題となっているニュースをよく耳にします。
「偽装請負をしている企業が訴えられて、業務改善命令などの罰則を受けた」といったニュースですね。
このように、偽装請負は業界を問わず社会問題となっており、社会的信用の失墜(しっつい)や、法律による制裁を受けてしまいます。
というわけで、今回は偽装請負がどのような仕組みとなっていて、どのような契約内容が関係しているのか。
また、法律違反となってしまう判断基準や罰則内容についても、順に解説していきます。
以下、目次。
- 偽装請負とは?なぜIT業界(SIerやSES)にて多く発生してしまうのか。
- 偽装請負を理解するために ~業務委託(請負、準委任)と派遣、それぞれの契約内容と違い
- 偽装請負が違法となる法律と罰則内容について ~法律違反となる判断基準と摘発事例も
- 偽装請負が問題となる、労働者(ITエンジニア等)へのデメリット
偽装請負とは?なぜIT業界(SIerやSES)にて多く発生してしまうのか。
偽装請負とは、企業間の契約上は請負(業務委託)契約となっているのに、その実態は派遣労働者(派遣契約)と同じような扱いとなっている状態を指します。
またこの状態は、本来であれば派遣契約を結ぶべきなのに、請負(業務委託)契約を結んでいるため、違法行為にあたります。
※請負(業務委託)や派遣の契約内容、それぞれの違いについては、次の章にて解説しています。
本来であれば、請負契約により、客先の業務を請け負うことになった労働者に対して、客先から直接指示をだすことは禁止されています。
一方で、派遣契約で派遣された労働者に対しては、客先が直接指示を出すことが可能です。
というわけで、契約は請負となっているのに、派遣契約と同じように、労働者に対して直接的に業務指示が出されている状態が偽装請負となります。
ではなぜ、違法行為となってしまうのに、多くの会社(現場)で、このような偽装請負が起きてしまうのか。
それは、派遣契約としてしまうと、(派遣労働者を守る)労働基準法や労働者派遣法を順守しなければならず、様々な制約がでてきます。
そのような制約を逃れるために、企業側双方の都合で、契約上は請負契約としておくわけです。
ただし、その実態は派遣契約と同じように、客先が直接労働者に対して指示を出してコントロールをしているわけですね。
客先からしたら、直接業務指示を出した方が効率的だし、受注側の企業も、お金欲しさに客先からの要望を断れないケースが多くなってしまいます。
そして、特にIT業界(SIerやSES)では、請負契約(業務委託契約)を主とするシステム開発の受発注が規模の大小を問わず数多くやりとりされているため、
企業双方の都合から、偽装請負となっている現場が多くなってしまいます。
偽装請負を理解するために ~業務委託(請負、準委任)と派遣、それぞれの契約内容と違い
続いて、偽装請負をより深く理解するために、関係する3つの契約について、順に解説していきます。
- 請負契約(業務委託)
- 準委任契約(業務委託)
- 派遣契約
1、請負契約(業務委託) ~偽装請負に関係する契約内容
請負契約は、業務委託契約の一種で、クライアントからの業務の依頼を受けて、その依頼に沿った業務をすることで、一括で報酬を受け取れる契約形態のことです。
IT(SIer・SES)業界では、システム開発の案件を受発注する際に、最も一般的な契約がこの請負契約となります。
ちなみに、請負契約では(契約時に双方で決めた)業務に対する成果を出す義務があり、業務成果に対して責任を負う契約となります。
なので、もしも契約通りの業務成果を出すことができなければ、報酬を貰う事ができません。
(IT業界では、あらかじめ決められたシステムの納品ができなければ、報酬を貰えなくなってしまいます)
また、業務委託契約は「雇用契約」とは違うため、労働基準法が適用されません。
そのため、客先の企業からしたら、労働基準法の制約(労働時間の上限等)が無く、労働力を手に入れる事ができますし、労働者に対する保険や税金関係の手続きも行わなくて済みます。
ただし、その代わりに業務に関する指揮命令権が無いため、客先(発注側)から労働者に対して業務的な指示(勤務時間や勤務地など)を出せない制限があります。
※指揮命令権は、受注側の企業(IT業界であれば、システム開発の案件を受注したSIerやSES)にあります。
2、準委任契約(業務委託) ~偽装請負に関係する契約内容
準委任契約は、(請負と同様に)業務委託契約の一種で、客先(クライアント企業)が、法律行為以外の業務(システム開発など)を、企業や個人に発注する際の契約形態のことです。
IT業界では、「SES(System Engineering Service)」とも呼んでいます。
(ちなみに、「委任契約」は、法律行為の業務が該当します。なので、弁護士に仕事を依頼する時は、委任契約となります)
準委任契約は、労働者一人当たりの日給や月給といった形で、時間当たりの報酬を定期的に受け取る報酬形態のため、業務成果(納品物など)に対する責任はありません。
また、準委任も委任も、(請負と同様に)業務委託契約の一種なので、労働基準法の制約を受けない点や、指揮命令権の扱いについては、上述の請負契約と同じとなります。
3、派遣契約 ~偽装請負に関係する契約内容
派遣契約(労働者派遣法)では、派遣元(派遣会社)が派遣スタッフと雇用契約を結びます。
そして、派遣元が派遣先の企業と派遣契約を結んだうえで、スタッフを派遣することになります。
上述の請負や準委任(業務委託)と大きく違うところは、派遣先の企業も、労働基準法に順守したうえで、派遣スタッフを管理しなければいけません。
そのため、業務に関する指示や、労務管理についても、派遣先でおこなうことになります。
※労働基準法の責任の所在は、事象によってことなります(以下、例)
- 「派遣元」:労働条件、契約期間(雇用契約の期間)、残業や休日出勤への時間外手当、保険や税金関連の手続きなど
- 「派遣先」:労働時間、休憩時間など
以上です。
請負・準委任(業務委託)と派遣、それぞれの契約内容と違いについてでした。
偽装請負が違法となる法律と罰則内容について ~法律違反となる判断基準と摘発事例も
続いて、偽装請負が具体的にどの法律に違反するのか。
その罰則内容や判断基準、摘発事例についても順に解説していきます。
- 偽装請負が違法となる法律と罰則内容
- 偽装請負(法律違反)となる判断基準
- 偽装請負による摘発事例について
偽装請負が違法となる法律と罰則内容について
偽装請負は、「労働者派遣法」と「職業安定法」によって禁止されていて、罰則も設けられています(以下、詳細)
-
「労働者派遣法」
労働者派遣法は、その名の通り、派遣に対する法律となります。
偽装請負は、本来であれば派遣契約により労働者を管理しなければいけません。
※実質的に、客先に指揮命令権があると判断される場合には、「労働者派遣」と評価されるため。
そして、労働者派遣をおこなう会社は、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません(労働者派遣法:5条1項)
なので、無許可での「労働者派遣」に該当する違反となります(労働者派遣法:24条の2)
また、罰則については、以下のように定められています。
偽装請負のように、無許可での労働者派遣事業に該当する場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されます(労働者派遣法:59条1号)
また、労働者派遣法に違法した場合、厚生労働大臣による指導・助言、改善命令、公表等の対象となります(労働者派遣法:48・49条の2)
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「職業安定法」
職業安定法(44条)では、厚生労働大臣の許可を受けて無料でおこなう場合を除き、労働者供給事業の実施、及び労働者供給による労働者の受入れを一律禁止しています。
※労働者供給とは、雇用関係にない労働者(雇用契約を結んでいない場合)を、他社に派遣して、他社の指揮命令下で労働に従事させることを意味します(職業安定法:4条7項)例えば、フリーランスの人と業務委託契約を結んで、そのフリーランスを他社に派遣(再委託)して、他社の指揮命令下で労働させるケースなどが該当します。
また、二重派遣についても、こちらの法律に抵触してしまいます。
(二重派遣とは?禁止され罰則ありなのに、当たり前の実態 ~業務委託による抜け道で違法にならないケースも)
罰則内容については、
労働者供給の供給元・供給先双方の事業主に対して「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されます(職業安定法:64条9号)
また、職業安定法に違法した場合でも、厚生労働大臣による指導・助言、改善命令、公表等の対象となります(職業安定法:48条の2・3)
偽装請負(法律違反)となる判断基準
こちらは、これまでの内容でも何度か記載していますが、
偽装請負(法律違反)となる判断基準は、客先の企業と労働者の間で指揮命令関係が成立するかどうかによって判断されます。
もしも、指揮命令関係が認められる場合は、請負(業務委託)ではなく、偽装請負となり法律違反となります。
例えば、客先から以下のような指示がおこなわれている場合は、アウトとなります。
- 勤務ルールや、勤務時間・勤務場所についての指示があった場合
- 仕事のやり方や、時間配分(休憩時間など)について指示があった場合
偽装請負による摘発事例について
偽装請負による摘発は、大手から中小まで、企業規模を問わず多くの企業が摘発されています。
今回は、その一例となりますが、
誰もが知っている大手自動車メーカーのグループ会社で発覚し摘発された事例となります。
労働者とは請負契約を結んでいたが、そのグループ会社の指揮命令の元で働かされていたのが実態となり、
該当の労働者がケガをして、その労災を報告しなかった事(労働安全衛生法の違反)が原因で、偽装請負が発覚した事例となります。
後に、このグループ会社は、請負から派遣契約へと更新しています。
参考記事:朝日新聞デジタル:トヨタ系企業が労災隠し、偽装請負が背景に
偽装請負が問題となる、労働者(ITエンジニア等)へのデメリット
最後に、偽装請負の問題点である、労働者へのデメリットについて、以下にまとめました。
- 企業側の都合で、労働者を守る法律の権利を利用できない事も
- 客先との関係によっては、残業や休日出勤が許容され、時間外手当が出ないケースも
では、順に解説していきます。
1、企業側の都合で、労働者を守る法律の権利を利用できない事も ~偽装請負の問題点
上述している摘発事例でもあった通り、本来であれば、派遣契約を結ばないといけないのに、偽装請負となっている状態を隠したいといった企業側の都合によって、
労災を国に報告しない。といった事が起こってしまいます。
このように、本来であれば守られるべき労働者の権利が、企業側の都合によって守られなくなってしまう可能性が出てきます。
労災保険による休業補償を受けられなかったり、雇用保険による休職(給与保証含め)ができなかったり、、
(もちろん、上記のようなことになったら、すぐにでも労働基準監督署に相談・告発すべきですが)
このように、本来であれば守られる権利が守られないといった事が起きてしまうので、注意が必要です。
2、客先との関係によっては、残業や休日出勤が許容され、時間外手当が出ないケースも ~偽装請負の問題点
こちらは、労働者と客先との間で、暗黙の了解となっているようなケースです。
本来であれば、残業や休日出勤をおこなえば、時間外手当が支給されるのは法律で定められている事です。
なのですが、例えば、労働者のミスであったり、業務スピードが遅いことによって、労働者が言い出し辛いような場合。
現場によっては、このような事が暗黙の了解となっている事も往々にしてあります。
さらに悪いのが、労働者を雇用している側の会社(労働者を提供する側)も、それを知っていて何も改善しないようなケースですね。
そもそもが、残業や休日出勤の指示が客先から出されること自体が、偽装請負になって法律違反となりますからね。
以上です。
偽装請負が問題となる、労働者へのデメリットまとめでした。
というわけで、今回は偽装請負についてまとめてきましたが、
請負(業務委託)で働いている方であったり、IT業界(特にSIerやSES)で働いている方の参考になっていれば幸いです。